産業廃棄物収集運搬業の許可を更新しようとしたら、窓口で「経理的基礎を確認できる書類」を追加で求められた——そんな経験をされた方もいるのではないでしょうか。求められて初めて知る書類なので、なぜ自社が対象になったのか、ぴんとこないことも多いはずです。弊社では、この書類を誰が作成できるかについて、全都道府県の公式資料を確認しています。今回はそこからもう一歩進んで、どんな財務状況のときに求められるのかを、各自治体の手引き・審査基準の原本にあたって見ていきます。
そもそも「経理的基礎」とは、事業を続けていけるだけのお金の裏付けがあるか、という意味です。それを確かめるために求められる書類は、名称が自治体によって異なります。「経営診断書」「財務診断書」「診断書」などと呼び方が分かれ、条件によっては診断士や会計士が作る書面ではなく、自社で作成する計画書・申立書で足りる場合もあります。本記事では、こうした一連の書類を総称して「経営診断書」と呼びます。
共通しているのは、多くは決算書の中の数字が判定の起点になっているということです。どの指標が、どんな状態になったときに書類が求められるのか。次の章から見ていきます。
各自治体の手引き・審査基準(2026年8月時点)を読み比べると、判定に使われる指標はおおむね次の6つに整理できます。
1つの指標だけで判定する自治体もあれば、複数の指標を組み合わせる自治体もあります。この組み合わせ方の違いが、次の章で見る判定の分かれ目になります。
「うちは債務超過ではないから大丈夫」と考えていると、思わぬところで書類を求められることがあります。福島県は、積替え保管を伴わない収集運搬業について、直近3年の経常利益の平均が赤字で、自己資本比率が0%以上10%未満の水準にとどまっているとき、直前期の経常利益は黒字であっても、手引きの判断の目安では事業収支計画書の提出を求めています。なお同じ状態でも、積替え保管を含む許可では中小企業診断士または公認会計士の診断書等が必要になります。純資産がプラスのままでも、対象になり得るということです。千葉県(処分業)でも同様の考え方が採られていて、事業改善計画書の様式に自己資本比率が10%を下回った理由、直前決算で経常損益がマイナスになった理由、直前3か年の経常利益の平均が赤字だった理由——を記入する欄が並んでいます。何が見られているかが、ここから読み取れます。いずれも、資産が負債を上回っていても該当し得るものです。
条件の組み合わせ方を、本記事では便宜的に2つに分けて見ていきます(行政が使っている区分ではなく、比較のための整理です)。
単独条件型——大阪府(収集運搬業)は、債務超過という1つの条件で判定します。該当した場合も、専門家の診断書ではなく自己申告の申立書などで足ります(府税・消費税等の未納がないことの証明書などは別途必要です)。
段階型——該当が重なるほど、求められる書類が重くなるタイプです。栃木県(収集運搬業)は、直前期の債務超過・当期純利益のマイナス・直前3年平均のマイナスという3つの指標が「いずれも」該当したときに専門家の診断が必要になり、1つだけの該当であれば、自社で作成する今後5年間の収支計画で足ります。長野県も同じ組み立てで、「繰越損失がある」「3年平均の経常損益が赤字で、かつ直前期も赤字」「債務超過」の3つすべてに該当したとき、群馬県は3年連続赤字かつ債務超過のときに、専門家の書面(長野県は中小企業診断士または公認会計士、群馬県は中小企業診断士)が必要になります。それより軽い条件なら、自社で作成する計画書で足ります。どこで線が引かれ、誰が書くのか。同じ「赤字」「債務超過」という状態でも、県によってこれだけ変わります。
ここまで県によって違うのは、国(環境省)の通知を土台に、各自治体が独自に基準を具体化しているためです(大阪府のように、根拠としてその通知を明記している自治体もあります)。なお判定後に求められる計画書は「今後5年間」を対象とする自治体が多く(群馬県・栃木県・愛知県・千葉県(処分業)など)、何年で直すことを求められるかも、自治体や状況によって考え方が異なります。
埼玉県は、収集運搬業(積替え保管を除く)と、積替え保管を含む収集運搬業・処分業とで、別々の手引を出しています。前者は、債務超過であることに加えて直近決算が経常赤字で、さらに3年分を通算しても赤字——そこまで来て、はじめて中小企業診断士または公認会計士の財務診断書が必要になります。後者は、債務超過であれば必要です。同じ「埼玉県で申請する」でも、どの許可を取るかで求められるものが変わります。「債務超過かどうか」だけを見て身構える必要はありませんし、逆に「うちは大丈夫」と決めてかかることもできない、ということです。
設立から日が浅い会社は、判定の材料になる「直近3期の平均」がそもそも存在しません。この場合の扱いも自治体で分かれます。三重県は、設立3年未満であること自体を追加書類が必要になる条件の一つとしています。一方、静岡県は逆に、新規法人については債務超過であっても提出を不要とする緩和規定を設けています。同じ「実績が短い」という状態でも、判定の方向は真逆になり得ます。
直近の決算書を開いて、純資産の欄を見てください。そこがマイナスになっていないか——それだけで、多くの自治体が入口に置いている条件に当てはまるかどうかが分かります。
数字そのものは結果です。実際に直すのは、その裏にある売上や原価、資金の使い方といった日々の業務です。純資産の次は経常利益、その次は納税の状況、と順に見ていって、どこかに引っかかるところがあれば、それが業務を見直す最初の手がかりになります。赤字や債務超過は一朝一夕には解消しませんが、手がかりが見つかれば、そこから動き出せます。
本記事は一般的な考え方の紹介で個別の判定を保証するものではなく、基準・様式・呼称は自治体により異なり(政令市・中核市は許可権者も別です)、実際の判断は所管の行政庁の窓口や手引きでご確認ください。
「うちはどの指標に引っかかっているのだろう」「この状態で、いったい何を出せばいいのだろう」——そのあたりが掴めないときは、主な自治体の必要書類と、診断士が作成者として明記されている都道府県をまとめた産業廃棄物許可 経営診断のページをご覧いただけます。経営診断書の作成のご依頼も、同じページで承っています。
更新の申請で、「直近期が債務超過なので、1年以内に解消する見通しを示してください」と言われて、言葉を失った経営者の方がいます。1年でどうにかなる保証などない——そう感じるのは当然です。今日は、なぜ「1年以内」が求められるのか、そして何を示せば認められるのかという話をします。
債務超過になると、一般的には信用力が低下し、事業の存続が危ぶまれる状況と見られます。本来であれば、事業の継続性を認めにくい状態です。ただ、債務超過になったからといって、その企業がすぐに立ち行かなくなるとは限りません。そこで、直近期末で初めて債務超過になり、直近期前期末はそうでなかった場合に限り、1年以内に解消できる見通しがあることを前提に、継続性を認めるという運用になっています。「1年」という短さは、猶予であると同時に、本気度を測る期間でもあるということです。
ここで一番つまずきやすいのが、「大丈夫です、改善します」という結論だけで済ませてしまうことです。求められているのは、1年以内に解消できるという見通しが、どれだけ妥当か——そして、その妥当性を裏づける評価の根拠となる理由です。「評価の根拠となる理由が記載されているものに限る」というのは、法令の中で明記されている条件です。結論だけの書面は、要件そのものを満たしません。
妥当性を示すための材料はいくつかあります。まず、直近期だけでなく直近期前期以前からの売上高・利益・純資産の推移を並べてみると、どのくらいのペースで悪化してきたのか、回復の兆しは出ているのかが見えやすくなり、1年以内という見通しの説得力が増します。あわせて、なぜ債務超過に至ったのか——景気や取引先の倒産、原材料価格の高騰といった外的な要因と、価格設定や原価管理、不採算な取引の放置といった内的な要因を押さえておくと、どこに手を打てば1年以内に効果が出るのかを考えやすくなります。ここで求められているのは、原因そのものを詳しく説明することではなく、1年以内に解消できるという見通しに、筋の通った根拠を添えることです。
そのうえで、すでに着手している改善の取組みがあれば、それは実績として書けます。「これからやります」より、「すでにこう動いていて、こう繋がっている」の方が、はるかに説得力があります。そして最後に、解消すべき債務超過の額と、そこに至る道筋——利益の積み上げなのか、増資や資本性の資金調達なのか、あるいは不要な資産の整理なのか——を数字で示します。原因・実績・道筋がそろって初めて、「1年以内」という短い期間に見合った妥当性になります。
2期連続で債務超過が続いている場合や、2期連続で本業の利益(売上総利益)が出ていない場合は、原則として継続性は認められにくくなります。ただし、設立5年以内の非上場企業(新興企業)に限り、柔軟に判断される仕組みがあります。独自性のある技術やサービス、新しいビジネスモデルに基づいて事業を伸ばそうとする企業は、立ち上がりの時期に赤字が続くこともある——という前提に立った例外です。
この場合、評価書だけでは足りません。投資家やベンチャーキャピタル、銀行等からの投融資に取り組んでいることを示す書類、製品・サービスの開発や顧客基盤の拡大に取り組んでいることを示す書類もあわせて求められます。評価書による見通しの説明と、これらの書類が示す事業の実態を踏まえて、債務超過となっていることについて合理的な理由があるかどうかが、総合的に判断されます。該当するかどうかも含めて、早めに確認しておくべき点です。
まずは、直近期末の債務超過の額を、数字で書き出してみてください。そして、その原因を「外的な要因」と「内的な要因」に分けてメモしてみる。この2つがあるだけで、1年以内の見通しを立てるための土台ができあがります。
本記事は一般的な考え方の紹介であり、個別の審査の結果を保証するものではありません。
評価書の作成のご依頼は、経営管理ビザの評価書のページで承っています(料金とご依頼の流れを掲載しています)。