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やらされ感があると、続かない

「あれだけ言ったのに、なぜ止まっているんだ」と、もどかしい思いをされたことはないでしょうか。指示を出したときは「やります」と返事があったし、しばらくは順調に動いていた。けれど、社長であるあなたが意識的に声をかけなくなった途端に、いつの間にか元の状態に戻っている。そんな光景を目の当たりにすると、社員の方への不信感とともに、「結局、全部自分が抱え込まなければならないのか」という失望感を感じることはありませんか。この連載の前回「半歩でいい」では、あなた自身が「もうできていること」を足場に半歩を踏み出す話をしました。今日はその半歩を、社員の方の側で考えます。なぜ「指示したこと」は止まり、「自分で決めたこと」は続きやすいのか。そしてその火を消さないために、社長に何ができるのかについてお話しします。

「言われてやること」は、言い続ける人がいなくなった瞬間に止まる

「正しく指示を出せば、相手は動いてくれるはずだ」。そう考えたくなるものです。しかし、ここには大きな落とし穴があります。「社長に言われたからやる」という状態は、例えるなら、誰かが車を後ろから押しているようなものです。押している人がいる間は、車は前に進みます。けれど、押す力がなくなった瞬間に、車は止まります。

指示で動いているとき、その人を動かしているのは、仕事の中身ではなく、「社長に言われること」という外からの力です。本人の側から見れば、それは「やらされ感」です。

この状態では、社長が忙しくなって声をかけなくなったり、あるいは「もう分かっただろう」と信頼して任せたりした瞬間に、彼らにとっての「動く理由」が消えてしまいます。結果として、取り組みは止まります。これは社員の方の能力不足というよりも、そもそも「自分の意思で動かすエンジン」がかかっていない状態であると言えます。

もちろん、安全や法令に関わること、日々の業務の決まりは、指示で動いてもらうべきことです。ここで扱っているのは、会社をよくしていくための取り組みです。

自分で決めたことは続くが、それでも「壁」にぶつかると止まる

では、反対に「自分で決めて取り組むこと」はどうでしょうか。自らの意志で「ここを改善したい」「こうすればもっと楽になる」と決めて動き出したとき、人は自前のエンジンで走り出します。外から押される必要がないため、社長が目を離していても、主体的に物事を進めることができます。

しかし、それでも安心はできません。自走し始めた人であっても、足が止まってしまうことがあります。そこには主に二つの理由があります。

止まる理由として見落としやすいのが、二つ目です。本人に諦めたつもりはなくても、優先順位の高い仕事が降りかかると、自分で決めた取り組みは後回しになり、いつの間にか忘れられてしまいます。気持ちが冷めたのではなく、目の前のことに押し出されてしまうのです。

「指示」は一時的に人を動かしますが、続くかどうかを分けるのは「指示」ではなく、時どき思い出すきっかけをくれて、取り組みを承認してくれる、誰かの一言です。

必要なのは、正解を教えることではなく「思い出してもらう」関わりと「承認する」関わり

自走し始めた人が壁にぶつかったとき、あるいは日常の忙しさに飲み込まれそうなとき。そこで求められているのは、「なぜやっていないんだ」という追及でも、「こうすればいい」という正解の提示でもありません。

大切なのは、「あなたがもともと、どうしたかったのか」を一緒に思い出す時間を持つことです。人は、自分が決めたことの価値を、自分一人で維持し続けることは難しいものです。特に、資金繰りの不安や日々の喧騒の中にいる組織では、余裕がなくなり、目先の処理に追われて「本来やりたかったこと」を見失いがちになります。

自分で決めたことが止まりかけたときは、車にガソリンを注ぐように、少しだけ燃料を足してあげることが必要です。後ろから押す、つまり指示や催促とは違います。「あの時、君はこう変えたいと言っていたよね」「あの件は進んでいる?」と、さりげなく声をかけてみる。それだけで、忘れかけていた取り組みを思い出すきっかけになります。

そして、思い出してもらうことと同じくらい大切なのが、承認すること、ほめることです。承認するのは、結果よりも、取り組んでいることそのものです。いつの間にか進めてくれていたら、「進めてくれていたんだね、感心したよ」と伝える。まだ形になっていなくても、「続けてくれているんだね」「助かっているよ」と言葉にする。どれも、「気にかけているよ」「あなたのことを見ているよ」という承認のメッセージになります。自分の取り組みを誰かが見ていてくれると分かることは、承認されたいという気持ちを満たし、「自分で決めたことを続けてよかった」という実感になって、次に動く力になります。

壁にぶつかっているなら、別のやり方を一緒に考える。忙しさに押されて忘れかけているなら、声をかけて思い出してもらう。そしてどちらのときも、取り組んでいることを承認する。止まりそうなときの関わり方は、これが基本です。

前回「半歩でいい」でお話ししたように、「もうできていること」を見つけ、そこから半歩だけ進む。この視点は、続けていく局面でも同じです。「完璧にやり遂げること」を目指すのではなく、「今の自分たちにできる範囲で、また少しだけ触れてみようか」という緩やかな促しが、結果として長く続くことにつながります。

まとめ──今日からできる小さな一歩

もしかすると今、あなたの周りには「言わないと動かない人」ばかりに囲まれていると感じているかもしれません。けれど、彼らの中にも、本当は「こうしたい」という小さな願いや、改善への意欲が眠っているはずです。

いきなり組織全体を変えようとするのは大変なことです。まずは、どなたか一人で構いません。指示を出すのではなく、相手が過去に口にした「こうしたい」という言葉を拾い上げてみてください。

「前に君が話してくれていた〇〇の件、その後どうなった? 難しいところがあれば一緒に考えたいんだけど」

返ってきた答えが「なかなか進んでいなくて」だったとしても、取り組もうとしていること自体を、まず承認するところから始めてみてください。少しでも進んでいれば、「そこまで進めてくれていたんだね」と伝える。できていないところを確かめるのは、そのあとで十分です。

そうして横に寄り添ってもらえると、「自分は一人で戦わされているのではない」「見てくれている」という安心感が生まれ、止まっていた足が再び動き出すことがあります。

もし、「こうしたい」という言葉が思い当たらなければ、それは意欲がないのではなく、口に出しにくかっただけかもしれません。社員が自分から動き、続けていくために、社長にできることがもう一つあります。次回は、その言葉が出てくるための受け止め方をお話しします。

この記事を書いた人

阿部 真也代表取締役/中小企業診断士

全国の中小企業の経営改善・事業再生を支援。実行段階では、経営者の自発的な力を引き出す独自の「自発型伴走支援」に力を入れている。

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