毎月、試算表は出るようになった。けれど、手元に届くのは、その月が終わって二か月、三か月あと——。四月の数字を見るのが七月、ということも、めずらしくありません。せっかく毎月締めているのに、届くころには、もう次の季節になっている。これは、とてももったいない状態です。
前回は、「毎月、会社の数字が出てくる状態」を作る話をしました。今日はその続き。数字は出ているけれど「遅い」——この落とし穴を、前後編に分けてお話しします。前編の今日は、なぜ遅れるのか、そして早めるときに何を譲ってはいけないのか。後編で、具体的な仕組みに落とします。
数字は、早く出るほど値打ちがある
前回、月次決算の値打ちは「傷が浅いうちに気づけること」だとお話ししました。ところが、数字が遅れて届くと、その値打ちはまるごと薄れてしまいます。三か月前の落ち込みを今ごろ知っても、打てる手は限られている。それは、年に一度の決算書を待っているのと、あまり変わりません。同じ試算表でも、翌月の早いうちに手元にあるか、二か月遅れて届くかで、値打ちはまるで違います。数字は、鮮度がものを言います。
二か月遅れの数字で舵を取ると、何が起きるか
車を運転していて、カーブに差し掛かってからハンドルを切ったのでは、もう遅い——そういう場面があります。会社の数字も同じで、傾きに気づいたときには、すでに二か月分、そのまま走り続けてしまっている。舵を取るタイミングそのものが、遅れているということです。
もう少し具体に見てみます。四月に粗利が落ちていたとして、それを知るのが七月だとしたら——五月も六月も、落ちたままの状態で走り続けたことになります。気づかなかった二か月分は、そのまま積み上がっています。
資金繰りにも効いてきます。「利益は出ているはずだ」と思って走っていたら、実は二か月前から赤字だった。手元のお金が思ったより減っていることに、あとから気づく。そのときにはもう、打てる手が金策のほうへ寄っていきます。早く気づけていれば、まだ改善のほうに手を回せたはずの局面です。
そして、いちばん厄介なのがこれです。遅い数字は、現場に問いかけられません。七月に「四月の粗利が薄いのはなぜか」と聞いても、現場の記憶はもう薄れています。「そういえば、あのころは忙しかったですね」で終わってしまう。数字が早ければ、記憶が新しいうちに、原因を一緒に確かめにいけます。
なぜ、月次決算は遅れてしまうのか
「早く出したいのはやまやまだ」——そう思っておられるはずです。それでも遅れてしまうのには、たいてい、いくつかの決まった理由があります。
- 資料が全部そろうのを待っている——請求書や通帳のコピー、領収書が、月をまたいで少しずつ集まる。「最後の一枚」を待つうちに、時間が過ぎていきます。
- すべてが確定してからでないと出せない、と考えている——遅れて届く一枚まで反映してから、と構える。正確であろうとする姿勢は、とても誠実なことです。ただ、確定を待つほど、締めは後ろにずれていきます。
- 記帳が後回しになる——日々の商売が優先で当然です。そのぶん入力がたまり、月末にまとめて、という流れになりがちです。
どれも、いい加減にしているわけではありません。むしろ「きちんとやろう」とするからこそ、遅れる。ここに、月次決算の少し皮肉なところがあります。
正確さは譲らない。譲るのは「全部そろうまで待つこと」
ここは、はっきりさせておきたいところです。会社の会計数値は、正確さが命です。だいたいでいい、という話では決してありません。一つひとつの処理は、これまでどおりきちんと合わせます。
変えるのは、精度ではなく「どこまで待つか」の線引きです。月末を過ぎても、請求書や領収書は少しずつ遅れて届きます。その最後の一枚を待ち続けるから、締めが翌々月にずれ込む。そうではなく、決めた期日でいったん締め処理を終わらせ、そのあとに届いたものは翌月分として処理する。正確さはそのままに、区切る場所だけを先に決める、ということです。目安としては、月末から15日前後、できれば10営業日以内での締めを目指したいところです。
多くの場合、待っているのは全体のごく一部にすぎません。その一部のために、会社の数字全体が二か月遅れる——ここが、いちばんもったいないところです。年に一度の決算では、どの月の費用として扱うかまで含めて、きちんと整えます。毎月の締めは、その手前で経営の舵を取るためのものです。
まとめ──今日できる一歩
まずは、自社の数字が、月末から何日で手元に届いているかを数えてみてください。十日なのか、四十日なのか、六十日なのか。数えるだけで十分です。そこが、いまの立ち位置になります。
そのうえで、覚えておいていただきたいのは一つだけです。正確さは譲らない。譲るのは、全部そろうまで待つこと。丁寧に合わせようと頑張っている会社ほど、締めは遅れがちです。その丁寧さはそのままに、待つのをやめる——そこから始まります。
次回の後編では、そのための具体的な手立てを三つ。「速報」と「確報」の二段階、締め切りの決め方、そして請求書が遅れがちな取引先とのルールづくりの話をします。